最近、日本でも見直され、話題になっているのは「全体主義の起源」で有名なユダヤ人のハンナ・アーレントである。彼女はドイツに生まれ、ナチの収容所に送られる直前、両親とともにアメリカへ渡った政治哲学者である。彼女によると少数民族への差別は19世紀産業革命以降、アフリカ大陸で金の発見などでヨーロッパから渡った人達の支配が顕著になったという。白人による差別は「白人は優越した民族であるという」発想から生まれたという。この人種思想がドイツ人の国民国家のツールとなって異質民族のユダヤ人への排斥につながっていった。当時のドイツは敗戦によって経済的な閉塞感や国家がバラバラの状態にあり、民族国家を立て直すというわかりやすい目標を立てたナチスが民族的ナショナリズム運動と、ヨーロッパを取り戻す運動と結びついていった。ドイツ人にとって、血族的民族をつなぐドイツ民族ではないユダヤ人は異質分子=異物としてドイツから排除もしくはユダヤ人の権利を奪わなければならないと考えた。
私はかねてからネットウヨが自分たちとは考えが合わないと「在日」というレッテルを張る意味がよくわからなかったが、この説明でようやく理解ができた。もう一つ、ドイツのワイマール憲法は議会制民主主義を取り入れ、あらゆる人が政治に参加できるようになったが、同時に政治的関心を持たない大衆社会を生んでいったという。その結果、ナチスのわかりやすい世界観が大衆を引き付けて行ったという。その後どうなったかはご存知の通りである。
ここまでくると、これは現代日本の現実の姿と重なって混乱してくるが、なぜハンナアーレントが今、人気になっているのかが理解できる。2012年ドイツの映画監督マルガレーテ・フォン・トロッタが「ハンナアーレント」を製作し、翌年2013年に日本でも公開され、話題になったという。レンタルビデオ店のどこかを探せばあるのかもしれない。私も探してみたいと思った。その前に一読をお勧めします。
・矢野久美子著「ハンナアーレント」中公新書(2,014) 820円(税別)です。